だるま貯金箱

「だるま」とは、中国禅宗の始祖、菩提達磨の座禅姿を模して作った張り子の玩具のことです。
 菩提達磨(円覚大師、達磨大師ともいう。)が、魏の崇山にある少林寺で、面壁九年を行い、その座禅によって、手足が腐ったという伝説から、手足のない、玩具(置物)としての「だるま」が、作られたと言われています。
 日本では、「起き上がり小法師」と呼ばれる、底に重りをつけた「だるま」が愛好され、何度も起き上がるという連想から、江戸中期以降に、「七転び八起き」の縁起物として、信仰されるようになりました。
 ダルマは、全体に赤く塗られているのが基本的なものですが、これは、菩提達磨の着ていた衣に由来し、また、赤は、古くから、魔除けの色とされていたことにも通じると言われています。
 明治時代中期以降になると、縁起物のダルマが、貯金箱も兼ねて登場しました。それ以来、現在まで、様々なダルマ貯金箱が、出現しています。その一部を紹介しましょう。


明治時代

 土ダルマの貯金箱です。背中にお金の入れ口があり、出し口は有りません。いっぱいになったら、壊して取り出すことになります。写真の貯金箱には、いつの時代のお金か、取り出せずに残っています。

 ダルマさんの顔は、どれも素朴で、良い顔をしています。古いものなので、明瞭さに劣りますが、胸元の模様は、「鯛」の絵か、「福」の字が一般的です。但し、左の貯金箱には、「打ち出の小槌」が描かれています。
写真、右側の二つは、良い赤色が残って、見栄えがします。


明治時代から大正時代

大正時代以前の、ダルマ貯金箱です。明治時代なのか大正時代のものなのか、特定出来ません。形も顔も色々で、それぞれ味わいがあります。壊して、お金を取り出すなんてことは、とても出来ません。思案の結果が、少し、お金の入れ口を、大きくしたということでしょうか。

下段が貯金箱の背面です。左側の貯金箱のお金の入れ口が、大きく削られています。結構、古い貯金箱に見られるものです。


 これも古い貯金箱だと思われます。時代は、特定出来ません。写真左側の貯金箱、顔も形も変わっています。ダルマの貯金箱かなと、一寸疑いたくなります。他のダルマも、劣化がめだちますが、それぞれ個性的です。


昭和時代


 昭和時代のダルマ貯金箱です。写真、左側の貯金箱、戦時中の貯金箱でしょうか。背中に、「一億一心」と書かれています。
次の貯金箱は、姫だるま貯金箱です。姫だるまは、神功皇后が、道後温泉で、応仁天皇を身ごもられたとの伝説から、郷土玩具として作られました。神功皇后の懐妊姿を表したものと言われています。普通のダルマらしからぬリアルな美女顔が特徴です。
 続いて、スチール製の貯金箱、更に、紙で出来た貯金箱です。紙の貯金箱の背中には、「起き上がり 小法し」と書かれています。


 <右写真>
 高さ32センチの陶器製の大きな貯金箱と、高さ12センチの同じく陶器製の小さな貯金箱、昭和26年1月新調と底に書かれています。
 迫力ある立派な顔のダルマ貯金箱です。終戦後、間もなくの制作ですが、見応えのある素晴しいものです。



 左側、山県市の平清水の「立ちだるま」の貯金箱と思われます。高さが、31センチあり、インテリアとしての価値が高い、見事な作りです。
 中央の貯金箱、色が落ちて見栄えが悪いけど、良い感じの癒し系だるま貯金箱です。
 右側の貯金箱は、状態の良いもので、かなり大きく張り子です。いずれも、今のところ、時代・産地がわかりません。


平成時代

 <左写真>
 左側、高崎のダルマ屋さんの貯金箱、つい最近のものです。普通のダルマにお金の入り口だけを設けたものです。高さは、40センチ位有ります。「一日百円 定額貯金」と書いてあります。
 次は、木製の貯金箱、そして、なかなか見栄えのする今様の貯金箱です。それぞれかなり大きなものです。


 <右写真>
お札で作ったダルマ貯金箱です。
 本物の五千円札と一万円札の裁断屑を80枚分使用した開運、金運ダルマ貯金箱(紙幣リサイクル)です。500円玉なら約300枚、100円玉なら約500枚入ります。最近では、話題の貯金箱です。

福助貯金箱

縁起物の福助人形は、江戸時代の中頃には存在したと言われています。
 その福助は、実在の人物がモデルになったとの言い伝えが有り、三人の説が有ります。

 一人目は、京都の呉服店「大文字屋の主人」、
 二人目は、滋賀のもぐさ店「亀屋左京の番頭」、
 三人目は、摂津の農夫の子「佐太郎」です。
いずれも、出世、繁盛、幸運に恵まれた人達です。

 福助の特徴は、頭でっかちで、福耳の持ち主、背が低いこと、そして、象徴となっているのが、勤勉で、正直者と言うことです。
 以来、福助さんは、商売繁盛・家内安全の神様として奉られています。

 この様な福助さんが、明治時代に入って、縁起物の貯金箱として、盛んに作られるようになりました。以下、時代毎に、福助貯金箱を見て見ましょう。


明治時代の貯金箱です。
 特徴は、おでこが出ていること、お金の出し口が無いこと(割らないと取り出せません)です。
 左側の貯金箱、模様・色が明瞭、全体に状態の良いものです。明治時代の福助貯金箱として、よく紹介されています。
 真ん中の貯金箱、多少、欠陥があるも、良い顔、良い色合いで、形もユニーク、何時見ても飽きません。
 右側の貯金箱、崩れ・汚れが目立ちますが、左手を上げて、招き入れています。福助貯金箱としては、珍しいものかなと思います。
 背中に奇麗に、お金の入れ口が有ります。そして貯金箱の底には、お金の出し口が有りません。


 大正〜昭和時代の貯金箱です。
 左側の貯金箱、古さが、良い感じにでています。右側の貯金箱、昭和の、結構新しいものと思いますが、変わった貯金箱で、面白いと思います。


 現在のものです。
 右側の貯金箱、中国製で、陶磁器、顔も変わっていますが、とても奇麗で、インテリアとして、見栄えがします。


 これも現在のものです。
 左側の貯金箱、「おじぎ福助」と言われ、「いらしゃいませ」、「ありがとうございます」の気持ちを、卒直に表現したもので、大変人気があります。右側の貯金箱、福助さんでは無く、奥さんだと言われているお多福さんです。最近のものですが、良く出来ています。
 ところで、この、おじぎ福助さん、よくよく見ると、下を向きながら、「あかんべー」をしています。いろいろな福助さんが居るものです。

招き猫貯金箱 上げた側の手 と 体の色 の意味するところ

猫の貯金箱の中で、招き猫の割合は、残念ながら未統計ですが、相当の割合になると思われます。招き猫の貯金箱を見た、来館者の質問で多いのは、上げている手の側に依って、「何を意味しているの」と言うことです。

 上げている手の意味するところを通説により説明します。また、いろいろな色の、招き猫の貯金箱も有ります。これにも、それぞれに意味があり、説明したいと思います。


<当館で所蔵する招き猫の貯金箱の例>

上の写真を参考に、

1.右手招き猫「お金や財産を招きます」
2.左手招き猫「人やお客を招きます」
3.両手招き猫「お金・お客両方を招きます」
4.白色招き猫(三毛猫)「福を招きます」
5.黒色招き猫「魔除け及び病を防ぎます
6.金色招き猫「金運を開きます」
7.銀色招き猫「長寿と繁栄」
8.赤色招き猫「難病奇病や子供の病気を防ぎます」
9.桃色招き猫「愛情をはぐくみます」
10.青色招き猫「学業の向上」
11.緑色招き猫「安全を確保します」
12.黄色招き猫「縁結びに一役かいます」
 などの意味があると言われています。


 また、招き猫には、面白い統計結果が出されています。
1.左手を上げているものが多い
2.小判を持った招き猫(小判猫)の比率 18%
3.小判に書かれている文字は、千万両が一番多く、次が開運
4.涎かけ着用率 29%などです。


 更に、
1.手の高さは、高ければ高いほど、遠くの福を招く
2.右手を上げているのが雄猫、左手を上げているのが雌猫と言われています。

 (参考:招猫倶楽部)

日本の貯金箱の特色

主として戦前、今でも伝統的には感じられる特色です。

1.割らなければ、お金が出ない。
  欧米のものは、鍵つきが多く、日本は、割らないと取り出せないタイプが主力です。鍵つきのものは、必要に応じて使え、リサイクル可能ですが、日本のものは、割らないと取り出せず、一杯に成るまで、ひたすら貯めることになります。これは、日本の貯金箱が、「貯める」器として登場したのに比べ、西欧のものは、「献金」の器として現れたという文化の違いによるものとも言われています。


2.縁起を担いでいる。
  お金が貯まるように、縁起の良いものを貯金箱にしました。恵比寿・大黒・布袋などの七福神福助・お多福・達磨・招き猫・宝珠・蔵などです。しかし、外国でも、金の卵を産むニワトリ・勤勉な蜜蜂と蜂の巣・幸運を呼ぶてんとう虫・慎重な亀・かしこい象・多産な豚など、縁起物の貯金箱はいろいろ有ります。

3.お金を入れる、穴の位置が違う。
  欧米の貯金箱は、人形でも頭のてっぺんに穴をあけますが、日本の場合は、入口の穴を工夫するようです。例えば、大きな布袋様は、口からお金を入れるようにし、小さな恵比寿様には、千両箱を積んで、そこに穴を開け、福助などは、背中に穴があります。頭のてっぺんに穴を開けるなんて、可哀想と言う感情は、理屈抜きのもので、「情緒的な貯金箱」と言われる所以です。


参考:世界貯金箱博物館 他

このブログについて


 信州戸倉上山田温泉に、2008年4月に開館した、日本有数の貯金箱専門大規模博物館「にしざわ貯金箱かん」より、貯金箱の歴史や文化など、ちょっと役立つ、貯金箱の雑学をお届けします。

 当館の詳細は、上部のリンクから公式サイトをご覧ください。